インタビュー企画も今回で4回目を数えましたが、 今回のゲストは、 化学者の楠雅幸(くすのき まさゆき)さんです。 貴重なお時間をいただき、去る2004年1月24日に インタビューいたしました。 ポートレートを中心に活動されている楠さんの写真に 対するお考えを聞く事が出来ました。

楠雅幸さんのホームページ
http://www.omoideporoporo.com/

Rollei Flex 2.8F(Planar)F5.6 1/250sec RDPⅢ

●プロフィール
◆生年月日 S.39/12/18
◆出身地 北海道札幌市
◆趣味 熱帯魚、音楽鑑賞
◆職業 化学者

 

SGP 2002 9月 モデル:池田 裕美絵
α-7 100mm(ソフト)F2.8
ソフト度1  F2.8 1/8sec RDPⅢ
三脚使用

 

SGP 2003 9月 モデル:清藤 智美
F100 Nikkor DC135mm F2
F2 1/250sec E200
ストロボ使用
【 楠雅幸(くすのき まさゆき)さんへのインタビュー 】
大貫カメラ
スタッフ

(以後スタッフ)
今日はよろしくお願いいたします。
楠さん よろしくお願いします。
スタッフ

まず最初に楠さんの簡単なプロフィールを教えて頂きたいのですが、ご出身の方は?

楠さん 札幌です。
で、大学院出て就職で初めてこっちへ出てきたんです。
でも写真始めたのは相当後、結局そういう事に本来ほとんど縁がなかったんです。
スタッフ 大学院では?
楠さん 全然。
結局仕事上、化学関係なんですけど、学会の発表なんかで写真を撮る必要があったりして、当時デジカメが普及していない時代で…
スライド投影された物の写真撮らなくてはいけなくなったというのと、趣味で熱帯魚やってたんだけど定期購読していた雑誌の方でたまたま 『魚をきれいに撮りましょう』っていう企画をやってたんです。
ま、要するにそういう2つのプッシュする要素がたまたまあって、それで写真を始めたのがきっかけです。
スタッフ 写真を始められて何年位になりますか?
楠さん 正確にいうと、初めて自分のカメラで写真を撮ったのは1996年の1月。
これはハッキリ覚えてます。
スタッフ 初めて写真にとったのは何ですか?
楠さん 自宅の熱帯魚です。
スタッフ それから写真に?
楠さん のめりこんだわけじゃないんですが、3年位自宅の魚を中心に撮っていました。
そういう事ばっかり撮っててもつまんないから、まぁ普通の人間がよくやるネイチャーとか撮ってたんです、一眼レフで。
きっかけはよく思い出せないんだけど、大貫カメラさんに出入りするようになって
スナップ関係の人達と付き合いが出来て結局そっちの方面と半分半分やるようになったわけ。
前にインタビュー受けた人たちもスナップで付き合ってます。
それが2001年の初冬位まで、スナップ中心にやってたのは。
今はポートレートなんですが。
スタッフ ポートレート中心に撮影されているんですか?
楠さん

今現在はね。
これもハッキリ覚えてるんだけど、2000年の10月16日にみなとみらい21で
富士フィルム主催の大撮影会っていうのがあって、大貫カメラさんから近いから行ってみませんかって案内受けて行ってみたんです。
僕はそのときポートレート専門じゃなくて普通の写真の方面では相当自信あったんだけど、(結果も出してたので)
出展したらかすりもしないから頭に来た。
ポートレートだから低く見てた事もあるんだけどかすりもしないから二重に頭に来た、
自分自身に。
ただ負け犬の遠吠えのように思われるのが嫌だから自分で調べて撮影会に行ったのが2001年の1月から。
結局そっち方面の知り合いが出来て、ポートレート中心にやるようになったんです。
なんか変わってますよね、そういう意味ではね。

スタッフ やはり難しいっていうのはあるんでしょうか?
楠さん

写真の基本そのものは変わんないんだけど、やっぱりポートレートはポートレートの
ノウハウがあるんですね。
でもやっぱり基礎があったから単なる自慢だけども、まじめにそっち方面を研究すると一発で某大会に入選したんです、スパンと。
最もプリントワークで大貫カメラさんの鈴木部長に助けてもらった要因もありますけどね(笑)。
それから知り合いに引き込まれて・・・
ポートレート専門にやってるクラブっていうのがあって、でもそういうクラブに入らずに一年一人でやってて、まぁ言い方悪いんだけどあちこち撮影会荒らしって言うわけでもないんだけど、出ては出展して結果を出していたんです。
そういう事やって半年位かな、SGP(湘南女性写真研究会)〔*1〕っていうのがあってそこの大撮影大会で賞とってその賞のご褒美に次の撮影会にただでご招待してもらったんです。それでのこのこ行ったらそこに入会届があってね。
半ば強引に引きづりこまれた(笑)。
後でわかったけどそこの顧問の先生が神奈川二科の先生で、大貫カメラさんは二科の窓口もやっているから大貫さんとSGPは全く繋がりが無い訳ではないですね。

スタッフ そういった感じで写真を通じて色々な輪が広がっていって…
楠さん でもね。
共通点は写真を撮ると言う一点しかないんだよ。
お互いの共通認識としてはいい大人がね、休日潰して商業写真みたいな物を撮る必要性はない…という点ではポートレートであろうが花鳥風月であろうがその点に関して僕達は意見が一致してるんですよね。
早い話、いいおっさんがさ女の子目の前にしてそこらへんの雑誌の表紙みたいな写真しか撮らないとさ、金と時間の無駄だよ。
スタッフ それだったら自分で撮る必要がない?
楠さん そう。だって残業代相当ですよ?(笑)
だって計算してみたら僕はスライドフィルム中心に使うんですけど、一枚の単価が現像代含めてね40円位になってたんですよ。フィルム代が700円、現像代が700円ね。1400円÷36枚で計算したら…3枚撮ればそれだけでジュース一本飲めるくらいになっちゃうからね。いい大人がさ自分の時間潰して。
じゃーそうすると何撮ればいいかっていう事になるよね。
やっぱり人の撮らないもの撮ろうということね。
もちろん写真の技術そのものは共通してるから、そこのレベルを踏み越えることは
絶対出来ないし許されるべきではない。
SGP 2002 5月 モデル:朝霧 ひかる
F100 Nikkor AF DC105mm F2
F2.8 1/320sec(RDPⅢ) モノクロ仕上げ

SGP 2003 12月 モデル:清藤 智美
F100 Nikkor 300mm F2.8
F2.8 1/320sec RDPⅢ
スタッフ 前にインタビューさせていただいた3人の方は横浜の街を中心に撮ってらっしゃいますが、
楠さんも横浜の街で撮影などは?
楠さん 自分でモデル抱えるとかまだそういう身分じゃないんで、やりたくても出来ない。
ただそういう機会があればね喜んでいくし、現に横浜バックにした写真もあるんですよ。だからそういうもの撮れれば嬉しいですね。
彼らとはスナップの付き合いもあるんだけれど、機会があれば一緒に撮りあってるんですよ。そういう機会があれば二眼レフとか使って遊んでるからハッキリ言えば放蕩以外の何物でもないんだけどね(笑)
スタッフ ではポートレートだけではなく、お友達とはスナップも?
楠さん 勿論、時間が合えばその辺撮ってますよ。
たまたま世間一般でコンペが多いのがこういう(ポートレートの)分野だという事だけですね。
今いるクラブにしても月に一回身内でのコンペティションあるし。
やっぱりお互い見てもらって批評しあったりする事が大きいね。
ただ花鳥風月撮ってるだけにしても他の人の批評を受けないとなかなか上達するのは難しい。
スタッフ 楠さんご自身が撮影するときに気をつけている点や、難しいと思っている点は?
楠さん 難しいと思ったのは、やり始めての3年、
始めの2年間自宅の熱帯魚以外何にも「写真が写りません」でした。
ところが3年目位になって突然「写真が写る」ようになりました。
自分の付けてるレンズと自分のイメージが一致するようになったのが丁度3年目位で、その感覚っていうのがそのまんまポートレートの方に来てるから僕の場合ポートレートもやってて、よくテレビなんかでカメラマンがモデルにポーズつけてさ微妙に形追い込んでるっていうのがあるでしょ?
あれは僕はしなくてニュアンスだけ伝える。で、割と一発で構図が決まる。
スタッフ そのニュアンスの伝え方が上手なんですね。
楠さん 結構曖昧ですよ。ただ撮ってる女の子が芝居っ気があるかどうかっていう話。
普通は誠実に言えばわかってくれるから。
こういう意図でこういう角度で撮りたいからこういう風にしてくれないか?とね。向こうも商売だからね。問題なのはそういう商売系の営業スマイルじゃなくて、どうやったら僕という存在を消せるか、僕の方を見ていてもそれがカメラマンなのか第三者なのか…
目線を外してる写真に関しても、僕という存在を全く無視しているんじゃなくて、99%
僕という存在がいないというのをわかっててもやっぱり1%意識向いてないと写真として成立しないんだけどね。
どうやって僕という存在を消しながらも僕という存在を主張するか…被写体に甘えてはいけないと思う。
だって、きれいな女の子がそばにいて写真を撮らせてくれること自体が世間の常識から言えば異常事態。 普通こういう事態はありえないよ(笑)
スナップなんか撮ってても例えば目と鼻の先で写真撮らせてくれることなんてありえないでしょ?それをいかにそういう風に見せるかっていう事ですよ。
そういう意味でいうと今のクラブ(SGP)みたいなシリアスな写真グループに入ってそれを維持していくってことは、それはそれで有意義なんだけどもね。
言い方悪いんだけど、僕は初め女の子の写真しか撮っていない人間を低く見てたっていうとこがあった。
その中に写真そのものを目的とするグループがあって、そこで写真を作っていく事、キザな言い方すれば、フィルムの売上に貢献するっていう事ではなく、要するに作品を発表する機会が多少は文化に貢献しているかなー?っていう気もするよね(笑)
そうでないと、大人が時間つぶしてやる意味ないよね。
だってそういった自覚がないと、こういう写真撮ってる人間は、世の中の人達の一部は好色漢の集まりだと思っているもんね。残念な話だけど。
スタッフ そのサークルに入るか入らないかによって、作品の広がりが?
楠さん 付き合いは深くなったよね、いろんな分野で。
例えばちょっと山ん中に行ってよんごとない事情でね、大きい荷物抱えることになった時も助けてくれたりするしね。
やっぱ僕がどういう写真撮って、どういう演出するかって知ってる人間は協力してくれるんですよ。
単独でやるにはやっぱり限界があるしね。
スタッフ 今一番使われてるカメラはなんですか?
楠さん

一眼レフのタイプです。
スナップとか撮ってる時はね、ライカとか道楽っぽいカメラ使ってるんだけど、
僕はきっぱり自分の好みとは切り離して考えてます。ポートレートを撮る時は。
昔の距離計カメラ〔*2〕っていうのはポートレートに不向きなんですよ。
強いて言うなら二眼レフというのがまぁまぁ向いてるんだけど。それは大きくて重いからたまにしか使ってない。ただ単に道楽だから失敗したらそれまでっていう話ではあるんだけど、問題なのは撮ってる女の子、確かに対価払ってるんだけど、やっぱりピシッとしたもの撮らないとまじめにモデルをやってくれてる人に対して失礼ですよ。
そういう意味でこういうものを撮るとき失敗は許されない。
基本はやっぱり最新機種でピシッと撮るのが原則。
道具のせいで失敗したとは言い訳たたないよね、女の子に対して。

 

SGP 2002 12月(七沢森林公園)
モデル:塚羽 有沙
α-7 85mm F1.4(Limited)
F1.4 1/320sec  E200

 

SGP 2004 1月 モデル:佐野 いつみ
F100 Nikkor AF35mm F2
F2.8 1/500sec RVP F

 

スタッフ メーカーは?
楠さん ニコンが中心なんだけど、各メーカーのここのメーカーしかないっていうレンズ、
僕はそれ一通り持ってて一通り使ってます。ニコン中心の理由はね、僕、使い方荒くって雨の日だとかそういう時に結構持ち出すんですよ。 だからニコンが中心になるんですよ。
でもニコンのレンズでは表現できないこともあるから、とっかえひっかえ使ってる。
スタッフ その中でもお気に入りとかあるんですか?
楠さん (笑)ところがお気に入りとなると一眼レフじゃないんだよ。ここが面白いところでね、
さっき言った古めかしいカメラ、二眼レフ。それのね、ツァイスのレンズの付いたローラーフレックス2.8F。
やっぱり効率悪いですよ。でもこれでピシッと来たときにね、きざな言い方すると丸たんぼうが丸く写る。1950年代の設計だけど、現在にも通じるところがあるね。僕はこのレンズが一番好きですよ。
結局女の子に対して失敗が許されない機材を選ぶっていう事と自分の好きなレンズって別の次元ですよ。場合場合によって僕は割り切ってます。
スタッフ 最後にこれから写真を始めようと思っている方に一言アドバイスありましたらお願いします。
楠さん

写真が好きならば、その写真の撮り方を学ぶ前に、好きな写真をいっぱい見ることを僕はお勧めします。一般的に手順を逆に踏んでいる人が多いと僕は思います。
つまり方法論を先に学んで、ハウツー本で、その通りに撮ればいい写真が撮れるはずだと言うのは手順が逆で、むしろいい写真見て、その写真を撮るためにはどうしたらいいのだろうか。
と研究していくのが、僕は本筋だと思ってます。
それは別に写真ではなく美術鑑賞でも、『なんでも鑑定団』の中島誠之助さんも言ってたと思うけどね、要するに美術名鑑なんかで、いい物を知るのではなくて、どっかで見てこれはいいなと思ったらそれを調べる。いいなと思ったものを調べるのが本筋だと。だから「方法論よりいいもの知る」っていう事だと思うんですよね、自分の好きな写真の分野の。
風景で言えばアンセル・アダムス〔*3〕の写真が好きになったら、アンセル・アダムスの名作をまず心の中にたたきこんで、じゃぁーそういう写真を撮るにはどうしたらいいのかって言うのを、彼の作品を見て勉強してがんばることですよね。
なかなか上達しないと悩んでいる人はどうもその辺が逆だと僕は感じています。

スタッフ 今日はどうもありがとうございました。
楠さん こちらこそ有り難うございました。

 

 

SGP 2002 3月 モデル:後藤 亜季
Contax Rx Planar 100mm F2
F2 1/250sec RDPⅢ

 

F90 Nikkor OC135mm F2
F2(Auto) +0.7eV
RDP100

 

※1

湘南女性写真研究会(S・G・P)
楠さんが所属している写真クラブ
詳しくは湘南女性写真研究会(S・G・P)のホームページをご覧下さい。

※2

距離計カメラ
レンズに連動した距離計(レンジファインダー)の付いているカメラのことで、レンズの回転によって距離計を動かし、スプリットイメージや二重像の重ね合わせでピントをあわせます。

※3
アンセル・アダムス (ADAMS, Ansel) 1902-1984
アメリカ・サンフランシスコ出身。
「ゾーンシステム」という写真を撮影からプリントまでを一環とした理論の開発者で、
アメリカのヨセミテ国立公園の大自然を題材としたものも多くあります。
ポートレートも多く撮り、「スティーグリッツ」や「ウェストン」(彼の恩師)のポートレートは有名です。
http://www.anseladams.com/